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だいたい100年までのものがたり

市ヶ谷の杜 本と活字館「100年くらい前の本づくり」に行ってきました。


よく博物館、美術館の展示品に書籍が入っていることがあるのですが、本のつくりを見たくても、製本そのものを見せてるわけではないので、肝心のところが見えなくて。もやもやっとして帰ることが多く、困っていました。


本の、のどやら花切れやらを見るのに、ずっと捕手のようにケースの前でしゃがんでいるので、はたからはおかしな人と思われるだろうなと、うっすらと客観視してはおりますが、そんな恥ずかしさはずっと昔どこかにおいてきてしまいました。大地の像の、のけ反ってる手のあたりに引っかかっているかもしれません。


市ヶ谷の杜はまさに杜。以前、深夜にこの周辺を迷いふるえ歩いたことがありました。山賊に襲われそうな感じの闇と静けさでした。予約日はちょうどスコールのような通り雨があって、周辺は木々のみずみずしさとアスファルトや建物が洗い流され、水滴でキラキラしていました。


完全予約制のため館内をゆっくり見ることができます。一部は禁止されていますが、撮影することも可能です。今回は製本が主体となっている企画展をしているので触れてよいものもありました。常設の展示説明は、秀英体フォントを作ったDNPを母体としている施設らしく、活字を作る工程から説明がはいります。デジタルをうまく利用して疑似体験ができたり、展示の道具をどう使っていたのか動画でもわかるようにできています。初めて見る製本道具もありました。


もともと鷹揚な性格なのか、今まで本を売る仕事をしていましたが、自分が売っていたのが紙の本であることを意識したことがありませんでした。ほんとうにここ何年かのことです。自分でもあきれてしまいます。読めればどうでもよかったし。


社会人になった頃は、ちょうどネットはまだまだながら、パソコンを売上管理などの情報処理に利用していこうとしていた段階の時期で、出版業界でもこれからはDTPが主流になるだろうという時代でした。文章を読むことは好きでしたが、読む手段として手にするのは、それまでも紙以外になかったので、そこにまったく疑問も感じないままきてしまいました。


もうちょっと早く気づく賢さが欲しかった。


曲を聴くのはCDかレコードか配信か。映画やテレビのドラマ番組は配信で見てもひとはそれを動画とはいいません。物語のような動画もあるのに。なのに「本」は、依然として紙の本か電子書籍かもやもやんとしている。どうしてなんでしょう。


肝心の、企画展でのこと。


実は今までもやもやっとしていたことがあって、それがわかったらいいなと思って足を運びました。外に出たら雨があがりすっきりとした杜が広がったように、今までのもやもやがみごとに晴れたのですが、次回にお話できればと思います。

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