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ここで投げ出す選択は



その日の食い扶持だけ得られれば、あとは全部、自分の「なぜ」に費やしてみようと決めて、特にここ数年、いろいろなことに挑戦したり、新しいところに足を向けてみたりしていました。自分の寿命までには、この「なぜ」の解決の糸口くらいは見つかるようにと。


なのに食い扶持分の仕事ってヤツは望んでもいないのに増えていくもので、年が明けて、加速するように朝から晩までくたくたになるほどで、余計なものに追いかけられて、気がつくと蝉の声が聞こえていました。


またコンクールの季節です。


いつもテーマは年の初めに発表されますが、実際、動き出すのは桜咲く頃、それまではずっとそのテーマでどんな「なかみ」を作るか考えています。桜が散って、雨の季節になっても全然浮かばないこともあります。製本部分の「うつわ」にテーマを表す年もありましたが、本は読むものなので、どうしても「なかみ」に気持ちが寄ります。


紙の本はできあがってひと様の前にすっと出ますと、いかにも当然ですというような感じでおりますが、実際は、紙質、その中の文字組、ページ断裁の仕上がり、簡易的な花切れか、組んだ花切れか、糊と水分の割合、表紙素材、革か布か、既製品か手製の素材か…そのひとつひとつの選択で、乾いた砂に水が沁み込むように、どんどんと時間が吸い込まれます。何時間あっても足りません。


選択する岐路ごとに、試作を重ねていくので、素材ごとの組み合わせで何組か作り、完全に冊子になっての試作は2冊でした。


前回はステンシルで金文字を入れましたが、今回はホットペンの箔にしました。手書きのため、自由に文字を書くことが可能になります。ボール紙の厚さや、表紙の素材、箔色と表紙の色と、4~5種類くらいの組み合わせで、ようやく冊子にしたものにペン入れです。


なんとかたどり着いた提出前日の夜。茫然としました。左開きの本なのに、逆でした。しかも、なかみも肝心なところに誤植。極力負担を避けるよう仕事先を選んでいたはずなのに、意志と反する仕事量で悲鳴をあげそうになった、というか珍しく根をあげていた時期と重なっての提出日の夜。なにかはじける音がしました。


でも、ここで投げ出す選択は「提出」ではない。


明け方、コーヒーを一時間かけてゆっくり飲んで、とりあえずやれるところまでやるしかないともう1冊、手持ちの材料をかき集めました。


なんとか、作品提出はできましたが、どうしても、もう一度、完成させたい。


これも毎年参加している展示会へ。



日中、コンクール会場のお手伝いをしながら、夜、同じ作業をしました。


毎回、主催していらっしゃるMarumizu組の生徒でもなく、通りすがりの一般人なのですが、お手伝いと称しつつ、他の方の作品などを見たり、お話を伺うと、作品になるまでの工夫や苦労など、勉強になることが多く、ただただ、手伝いさせていただき、ありがたいと毎回思います。



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