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あたらしい憲法のはなし


これから先のことばかりを考えて、いつもやったことを忘れがち。活動しているのであればお知らせするのは当たり前なのですが、遅々として進まず一日一日が終わっていく。毎日が夏休み最後の日のような心境です。


毎年テーマに沿って一つ「なかみ」を決め、二つの「うつわ」を作ります。


今回、うつわの一つを「三点綴じ」という手法でやってみたいと思っていたので、それに合わせるなかみを考えるというところから始まりました。



「三点綴じ」というのは、上図のように本束の脇を(背)糸でつなげていくのではなく、”ばすん”と上から糸でつなげちゃうっていう方法です。やってみたいと決めたときには、一目瞭然、簡単そう、時間かからなそうと少々たかをくくっておりました。


通常はかがり綴じといって、折った本の束を縫うようにしていきます。三点綴じでは本を束ねることはできても、最後までページを開いて読むことができません。少しでも製本というものを知っていれば思いつくことはない方法を、それを生業とする人がやってしまうなんて!そんな驚きに見合うなかみにたどり着くのに、けっこう時間がかかってしまいました。


コンクールのお題である「日本語」で思い浮かんだのは、日本国憲法の前文でした。子どもの頃ベストセラーであった時の印象がそうさせたのだと思います。法律は、様々な解釈を持つことによって、それぞれ着地点や結論が人によって変わってしまうことがあります。日本の法律の柱となっている憲法であってもそれは同じことで、今様々な議論をされているところは記憶に新しいところかと思います。


と、浮かんではみたものの、誰が見てもテーマに沿っていると感じてもらうにはちょっと遠すぎる気もするし、簡易的な製本になってしまうのでどうしてもなかみはある程度のページ数が欲しい。一旦は他を探してみたのですが、やはり思いつくと、どうしても諦めきれない質で、ぎりぎりまでなかみが決まらずにおりました。


その時目にとまったのが、「あらたしい憲法のはなし」でした。


戦争で子どもたちの身に起こったできごと、それを踏まえてできた憲法を、章ごとに説明しています。寄り添うように、それでいて熱心に語りかけています。ただ、読んでいて哀しくなるのは、だったらどうして子どもたちにそんな悲しい思いをさせのかということ。つい責めたくなるのですが、この本を世に出した大人たちは、だからこそ後悔の念を持って、強く語りかけているのかもしれません。ページを開くと、真空パックを開封したときのように、わっと叫びのような風がふくようで、胸を打ちます。


自分が生まれていない時代に書かれたものでも、ページを開いた瞬間に解凍されて、鮮やかに当時の世界が目の前で動き出す、当時の人の心に触れることができるのは、なにものにも代えられないことです。


ひとりでも多く、ページを開いた風を感じて欲しい。

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